文化審議会の私的録音録画小委員会で「著作権法第30条見直し」の議論がなされています。10月12日に中間整理が提出されました。10月16日からはパブリックコメントの募集が始まります。
現時点で文化庁のページには中間整理がアップされていません。中間整理(案)から変わっていたとしても枝葉末節しか変わっていないはずなので、中間整理(案)ベースで話を進めます。
著作権法第30条の適用範囲から除外され、私的複製が違法化される方向で話が進んでいるのは以下の2つの類型です。
- 違法録音録画物、違法サイトからの私的録音録画
- 適法配信事業者から入手した著作物等の録音録画物からの私的録音録画
前者については「ダウンロードの違法化」ということでネット上でいろいろな指摘がなされていますが、後者はあまり取り上げられていない気がします。
委員会の議事録を追いかけていると、後者も結構重要な気がしてきたので、議論の流れのエントリとは別に、このエントリで説明します。
「適法配信」とは
配信事業者が権利者と契約して、配信することです。権利者と契約してないのは違法配信。適法配信の例としては、GyaOとかのネット配信が挙げられます。
どうなるか
正直これ違法化ってほんと?って思ったので、分かりやすく言葉にしているところを議事録で探しました。
【《東京大学教授》大渕(《委員》】 …要するに、適法配信を受けて、それを私的に録音録画する場合には、それが私的範囲でなされる場合であっても、法30条1項の対象から外して、そうなると許諾を得ない限りは適法に複製ができないと、そういうことになるわけですか。…
【川瀬室長】 現在そういうようなことが可能になったのは、やはり著作権保護技術と契約というものが組み合わせたビジネスモデルが新しくできたということだと思います。従いまして、今は確かに契約書はいろいろなパターンがありますが、仮にダウンロードしたものからコピーすることが30条の外になった場合には、配信のビジネスモデルというのが単にダウンロードしただけではなくて、そこから何回かコピーを可能だということを含めたのがビジネスモデルですから、当然契約書が変わって、3回までであったら許諾し、料金はもう配信料金に含まれていますという内容になるのだと思います。…
また、確かに今の契約を見ると、30条が権利制限規定だということを前提にした契約書もあるし、そこのところは何となくあいまいになっているものもありますが、それは法規範が変われば契約書が一斉に変わって、当然のことながら著作権保護技術が担保利用者の複製についてあなたはこの範囲まではれだけできますよということになると思います。
【大渕】 確認だけなのですが、法30条の適用範囲外となれば、原則は許諾を得なければいけないのだから、例えば契約で3回までは複製できるというように、要するに契約で処理して、当事者の納得の上で許諾の範囲が一定の範囲に決まれば、それを支えるために技術的保護手段があるのでしょうが、許諾の範囲内であれば、適法にできるし、その範囲を超えた部分は許諾がないので違法だという整理になるということでしょうか。
私的録音録画小委員会(平成18年第7回)議事録より 《》内は私が補完した語句、色付け・強調は私、以下同じ
……えーと、ポルナレフのAA貼ってよいですか?
大渕委員、耳を疑ったのか確認までしてるし。
ネット配信からの私的複製は契約書次第、コピーを3回までしていい契約なら3回まで、コピーを1回もしてはいけない契約ならでコピーするのはダメ、ということになります。私的複製の余地はなくなります。
なぜ?
文化庁が挙げる理由は以下のとおり。
(理由)
* 著作権保護技術と配信契約により、利用者の把握や複製の制限は容易
* コンテンツホルダーであるレコード製作者又は映画製作者のみならず、それ以外の権利者の権利行使が容易になる
* 利用者とネットで接続されており、著作物等の録音録画ごとに利用料を支払うことも可能
* 一般に配信から利用者の録音録画複製までがビジネスモデルであり、《著作権法第30条から除外すると同時に私的録音録画補償金の対象から除けるので》「二重取り」の疑念がなくなる効果がある。
* 利用者は現状と同様に適法に録音録画することが可能(違法状況の放置の可能性が低い)
私的録音録画小委員会(平成18年第8回)資料3より
最後の*には、「契約次第で」って言葉が抜けてますよね?「契約次第で適法に録音録画することが可能」ってことですよね?
孫コピーの取り扱い
【川瀬室長】 …もし配信サービスの中で、お客が例えば3回までコピーをされて、その複製物が友達に渡って再コピーされるということであれば、それは適法複製物の複製ですから、友達から借りたCDの複製と同じになるわけです。そのときには、仮に補償金制度というのが存在するとすれば、そこに移行する。ただ、その《著作権保護技術を使ってその本人がコピーしたものからの孫コピーをできなくするか、孫コピーが可能な状態でコピーできるようにするかという》選択肢は権利者が選べるということになるのだと思います。
私的録音録画小委員会(平成18年第7回)議事録より
DRMがかかってないコピーを配信事業者が認めていれば、孫コピーは黙認、ということらしい。
例えば、これが通ると「視聴のつど料金を取る、私的複製は1回も認めない」という配信が可能になるわけですね。著作権保護技術で複製の制限は容易って言っても、例えばアナログ録音だったら神様でもない限り止められないわけですよ。それを違法化するって……。補償金取られたほうがまだマシです。てか、適法配信を私的録音録画補償金の対象外にするって言われても補償金を取り返した方が損をする現状ではご冗談をとしか思えないし。
文脈が異なるので直接引用はしませんが、権利者側の委員である華頂委員ですら第7回委員会で「配信というのはパッケージの流通ビジネスの代替」とおっしゃっておられます。私もそう思います。端的に言うと、パッケージソフトは私的複製してよいのに配信はダメっていうのにすごい違和感感じるのです。スパイ大作戦ばりの一度再生したら二度と見れなくなるパッケージソフトが世の中に流通しまくっててそれが当たり前だね、って世界なら適法配信からの私的複製が違法化されてもそんなものかと思えますけど、そんな世の中じゃないでしょう。
これだけ重い話なのにネットであまり取り上げられていないので、こうして書いて整理してみても私の認識で合っているのか不安になってきます。
間違っていたら是非教えてください。
このエントリが私の勘違いであってほしいと全力で思います。